メンタルヘルス

産業保健の話題「視点を変える」

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視点を変える

      鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員 大迫 政智

臨床精神科医として毎日外来診療を行っておりますと、治療に難渋するうつ病症例がしばしばあります。

そのような場合、統合失調症や発達障害の合併を再検討してみたり、環境要因に再度注目して、家族調整を行ったり会社の上司を交えた面談をしたりして、軽快へ向かうことがあるのもご存じの通りです。

しかし、それでもなお理解しがたい再発を繰り返すうつ病があります。うつ病は再発を繰り返すたびにじわじわと重症化していくことが多いといわれています。また、悪化するたびに休職するか否かの判断を求められるケースでは、実生活に及ぼす影響には大きいものがあります。

そのようなとき、ふと視点を変えて、初診時に聴取するような生活状況、殊に飲酒状況に関して聴取すると、はっと気づかされるケースが稀ならずあります。落ち着いた状態のときにはたいした飲酒でもない患者さんが、うつ状態が悪化する前後から飲酒量がぐんぐん増えているというケースです。

本人は不眠が強くなってきたから飲酒しているだけのつもりでいるし、あるいは余計なことは報告しないで済まそうと診察室で報告しないわけです。また報告した場合でも、医療者側が反復性うつ病と軽度アルコール症との単なる合併として漫然と片付けてしまうこともあります。ですから「気分の変化」と「飲酒行動」との間の相互関係に着目していないと、見逃してしまうケースです。

過度の飲酒行動により身体機能が低下し、生活リズムが乱れ、それらに基づいて起こる体力・気力の低下、心身の調整力低下、自尊心や自信の低下等がうつ状態を更に悪化させる悪循環を起こしている状況ということになりますので要注意です。

従って、うつ状態悪化の背後に存在する飲酒行動異常の存在にも注目し、それが認められたら、うつ状態の治療と共に飲酒行動との相互関連に対する明確化や指導も平行して施行することが必須ということになります。

現代精神医学事典(弘文堂)にはこの状態について次のように記載してあります。

「渇酒癖(dipsomania);平素は節酒、禁酒も可能であるが、気分失調時などに抗拒不能な飲酒欲求が突然に起こり、連日連夜飲み続け数日から数週間続いて急激に終わる。アルコール関連障害の一種であるが、現在、独立した疾患としてではなく、てんかんや気分障害、アルコール症、異常人格や衝動障害、統合失調症などを基礎疾患、原因とすると考えられている比較的まれな症候群である」。

一定以上の年齢の方なら、かつてたまには耳にした病名ですが、視点を変えるという意味で思い返されても良い病名かと思います。


第211回「視点を変える」
鹿児島県医師会報 2019年3月号

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