メンタルヘルス

産業保健の話題「メンタルヘルスの闘値」

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第187回:メンタルヘルスの闘値

      鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員 大迫 政智

Ⅰ.草をむしる

詩人・蜂飼耳は「おいしそうな草」(岩波書店、2014)の中に、八木重吉の
「草をむしる」というとても短い詩を引用する。

〈草をむしれば/あたりが かるくなってくる/わたしが/草をむしっている
だけになる〉

蜂飼は、「それだけの詩だ。けれど、ここにある言葉ほどなにかが
『かるくなってくる』感じをぴたりと表した詩を他にならない(中略)。
むしると、草はちぎれて、手に緑の香りが染みつく(中略)。
むしっても、むしっても、また生えてくる。それは、
なにかを終わらせるための動作ではない。終わりはない」。と語る。

八木の詩を語る詩人の言葉は、メンタルヘルスのみちのり、
あるいは闘値について語っているように、感じられるのである。

Ⅱ.ストレスチェック

「ウツは心の風邪」という表現で、精神科医療は(収容を目的とした)特殊な医療
ではなく一般医療の一分野であると、やっと正当に認知された(と筆者は感じた)。

だが、この表現は歓迎されなくなった。「懽る可能性の高さ」こそ、
よく表現していたが、「1~2週で回復する」という誤解も含んでいたからだろう。

一方で、うつ病の認知度はその後も高まり、2014年ストレスチェック義務化法案
が公布された。従業員50人以上の企業を対象に、同制度の初回実施が
平成28年11月30日までに終わったことになる。

Ⅲ.Aさん、Bさん、そして

Aさんは、数百人規模の企業に勤務する真面目なベテラン社員である。
ご時世とはいえ時短・リストラ・業務過多からウツウツとした日々が続いていた。

「ストレスチェックで指示通り正直に書いたら、医師の面接を勧められました」
と初診した。「報告書にはどこまで書くんですか?」と、
報告書記載後の処遇を気にするのだった。

同じようにウツウツと勤務するBさんは、従業員20人ほどの会社に
勤務している。ストレスチェック制度については知らない。上司からの相次ぐ
パワハラに耐えられなくなり有休も目減りし、初診した。

労働基準局にも相談はしたが「今後の転覆の妨げになっては」と考え、
相談は取り下げて再就職を目指すことにした。

Ⅳ.カラセックの三次元モデル

カラセックによると、職場のストレスまたは働きやすさは、
以下の三つの要素の三次元的構成によって左右される。

 ①仕事内容の麺・質、
 ②仕事の自己裁量度(自己決定権の多寡)、
 ③上司からの適切な指示と支持、

の3つである。

自明のことではあるが、いずれの要素も偏り過ぎてはならない。
そして、AさんやBさんの事例は、現在進行形である。

加えて、過日のD社過労自殺に関する一連の報道もあった。
それらの現状を控えめに判断しても、「職場のメンタルヘルス」は、
未だ正当に認識されてはいない、と言って良いだろう。


産業保健の話題 第187回:メンタルヘルスの闘値
鹿児島県医師会報 平成29年3月号

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