メンタルヘルス

職場のメンタルヘルス(総合失調症)

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統合失調症 schizophrenia (E) , Schizophrenie (D)



統合失調症の出現頻度は高くない
(概略100人に0.5~1人、うつ状態は100人に5~10人)。

地域差、民族差も殆どないといわれる。
低経済階層に多いという者もあるが、定説とはいえない。脳内ドーパミン・ニューロン系の過活動によるというドーパミン仮説が有力だが、未だ定説ではない。

生理学的、薬理学的、遺伝学的、その他の検索が精力的に種々行われているが、生物学的成因は不明のままである。一方、その病状の悪化に環境が関与することも、しばしば認められるところである。

また、近年その病状が軽症化してきていることもよく指摘されるところである。従って、かつては発症即入院治療(この子が死ぬまで、一生面倒みて下さい)という図式は通用しなくなってきている。

軽症の統合失調症では、高血圧症や糖尿病のように外来における薬物療法が十分可能であり、治療しながらの就労もまた十分可能な場合が多くなってきている。


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Ⅰ.診断



診断学的に特異的な所見は、発見されていない。
従って現在でも、20世紀初頭からの「臨床症状の組み合わせ(症候群)」、「経過の特徴」の両者を併せて診断される。


1)schizophrenia臨床像の変遷

 1886年
Kraepelin,E. 「早発性痴呆」Dementia Praecox
 1911年
Bleuler,E 「精神分裂病」Schizophrenie
Bleulerの4A  Assoziationslockerung(連合弛緩)
 思考論理性のつながりの障害
 Affektstorung(情動障害)状況にそぐわない
 奇妙な情緒反応
 Autismus(自閉)
 Ambivalenz(感情の両価性)
 1955年
Schneider
一級症状
①思考化声
②話しかけと応答の形の幻聴
③自分の行為を絶えず批判する形の幻聴
④身体被影響体験
⑤思考奪取と思考干渉
⑥思考伝播
⑦妄想知覚
⑧感情や欲動や意志の領域における他からの
作為体験や被影響体験の全て

Bleulerの診断基準は慢性期に、Schneiderのそれは急性期に適用しやすい)





2)症候学的特徴(見たて方)

<具体的な症状の見方>
 ①器質的病変を示唆する所見がない。
 (中毒性疾患、痴呆症など;意識障害、記憶障害、知能障害など)

 ②生活態度の特徴的な異常所見。
 (孤立・自閉的傾向など特異な対人関係・社交性)

 ③思考、知覚、感情、意欲、行動などの特異的な症状

 ④軽症化あるいは外来型統合失調症、境界例(境界型人格障害)の問題

ⅰ.思考の異常

 ①思考内容の異常…妄想気分
(どことなくただならぬ気配、意味ありげな周囲の状況)

 妄想知覚:(知覚体験に妄想的意味づけをする)
 妄想着想:(不意に妄想的考えが意識に浮かぶ)
 具体的には、被害的あるいは関係的妄想が多い。

 ②思考過程の異常…観念連合弛緩
 (まとまりが悪く、意味が受け取りにくい)
 滅裂思考:(上記の症状が増悪すると、言葉のサラダ状態になる)
 思考途絶:(妄想や幻覚のため、思考が途中で止まってしまう
      …思考奪取、思考吹入、思考伝播)

ⅱ.知覚の異常

 ①幻覚…幻聴(幻声)が殆ど。
 話しかけ、批判・噂、など。思考化声。ときに体感幻覚、
 まれに幻嗅、幻触、

ⅲ.感情意欲の異常…情緒的対人交流、疎通性が悪い

 情緒的対人交流、疎通性が悪い。場面に不適切な反応、
 不釣り合いな反応、自閉、感情の平板化、鈍麻ともいう。
 意欲に関しては、自発性の減退が主だが、主に慢性期の問題。

ⅳ.行動の異常

 急性期に問題となることが多いが、最近は減ってきた。
 カタレプシー、常同症などの姿勢や行動の保持・繰り返し。

ⅴ.初期症状の特徴

 ①引きこもり(外界への過敏、あるいは外界への関心の減少)
 を伴う不分明な多症状性神経症
 (きっかけがはっきり分からない抑うつ、不潔恐怖・強迫症状、
 対人恐怖、あるいは神経衰弱状態など)
 ②引き続いて急性期特有の状態が出現してくることが多かったが、
 近年はこのままの状態が続いたり、そのまま慢性期の症状に移行して
 いくことも稀ではない。

ⅵ.亜型分類

 破瓜型、緊張型、妄想型

ⅶ.病前性格

 分裂気質(痩せ形体格で、対人交流が苦手でやや風変わりな性格)

ⅷ.鑑別診断

 初期には種々の神経症、境界例との鑑別が困難、
 急性期には躁うつ病との鑑別が困難な場合がある。







3)20世紀末からの診断基準 DSM-3(APA) , ICD-10(WHO)

DSM-3(295.xx)Schizophrenia

A.活動期において特徴的な精神症状が存在すること。
  :少なくとも1週間(1)か(2)か(3)が存在

(1) 以下のうち2つ
(a)妄想
(b)著明な幻覚:
(数日間、1日中通してか、または数週間にわたり数回/
週、各々の幻覚体験はほんの短い時間に限定されない)
(c)滅裂または著しい連合弛緩
(d)緊張病性の行動(拒絶、興奮、姿勢保持など)
(e)平板化した、またはひどく不適切な感情
(2) 奇異な妄想(すなわち、その患者の属する文化圏では全く信じられない現象、たとえば思考伝播、死者に支配される、など
(3) 声についての著明な幻覚<(1)(b)の定義>で、
その内容に気分の抑うつや高揚とはっきりした関係がないもの、または声が患者の行動や思考を逐一説明するもの、または2つ以上の声が互いに会話しているもの


B.病気の経過中、仕事、人間関係、身の回りの始末等の面での機能が、病前に獲得していた最高のレベルより著しく低下している。(または小児期や青年期の発症の場合、期待される社会的発達レベルにまで達しない)


C.「分裂感情障害」と「精神病像を伴う気分障害」を除外しておくこと、すなわち、「大うつ病」または「躁病症候群」が本疾患の活動期に存在していたとしても、その気分症候群のエピソードの持続期間の合計は、本疾患の活動期および残遺期の持続期間の合計に比べて短い。

D.疾患の持続的な徴候が少なくとも6ヶ月間持続する。この6ヶ月の期間には統合失調症に特徴的な精神病症状(Aの各症状)の存在する活動期(少なくとも1週間、またはうまく治療されればより短い)が含まれなければならないが、以下に定義する前駆期または残遺期は含むことも含まないこともある。

前駆期 疾患の活動期に先行して明らかな機能の低下があるが、
気分の障害または精神活動物質常用障害によるものではなく、以下の症状のうち少なくとも2項目を示すもの。
残遺期 疾患の活動期に引き続いて、以下の症状のうち少なくとも2項目が持続しているが、それらが気分の障害または精神活動物質常用障害によらないもの。

前駆あるいは残遺症状

著しい社会的孤立または引きこもり
勤労者、学生、主婦としての役割を果たす機能の著明な障害
非常に奇妙な行動(たとえば、無価値のものを収集する、公衆の前で独り言を言う、食物を隠し貯めする)
身辺の清潔と身嗜みの著明な障害
鈍麻した、あるいは不適切な感情
脱線的な、曖昧な、凝りすぎた、あるいは迂遠な会話、または会話の貧困や会話の内容の貧困
風変わりな観念、または魔術的思考が行動に影響し、文化的基準に合っていないこと。たとえば、迷信的であること、
千里眼を信じる、テレパシー、”第六感”、”他人が私の感情を感じる”、支配観念、関係念慮。
異常な知覚体験、たとえば反復する錯覚、実際には存在しない力や人物の存在を信じること。
自発性、興味、気力の著しい欠如。
(例;6ヶ月間の前駆症状と1週間のAの症状、or、前駆症状なく6ヶ月間のAの症状、or、前駆症状なく1週間のAの症状と6ヶ月間の残遺症状)



E.器質性の因子がこの障害を起こし、維持していることが証明できない。

F.もし自閉性障害の既往があれば、統合失調症の追加診断は著しい妄想や幻覚が存在する場合のみに与えられる。



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Ⅱ.治療



ⅰ.薬物療法
抗精神病薬 フェノチアジン系
(クロルプロマジン、レボメプロマジン)
ブチロフェノン系(ハロペリドール)
ベンザマイド系(スルピリド)
新世代の向精神薬
(リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、
 ペロスピロン)
デポー剤(フルフェナジン、ハロペリドール)
液剤(リスペリドン、ハロペリドール)
その他 必要に応じて睡眠導入剤、抗不安薬、抗うつ薬、抗てんかん薬なども併用されることがある
副作用 錐体外路症状、痙攣、便秘、口渇、生理不順、
乳汁分泌、など
ⅱ.電気衝撃療法
 最近では、ごく限られた症例に対して
ⅲ.精神療法
 服薬、治療継続への現実的指導

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Ⅲ.症例



症例の細かい部分は、プライバシー保護のため、
全体の理解を妨げない範囲で変更してある。

A:住宅を新築したら「人の声がする」と言い、仕事に行かなくなった。
 (緊張型)

症 例 初診時45歳、男性
主 訴 「独り言を言ったり閉じこもりがちになった」と保健所を経由して妻と両親が受診
家族歴 二人同胞第一子、両親・妻・子供三人と七人家族、第一子長男(中学生)が不登校傾向
既往歴 特記事項なし
生活歴 高校卒業後、上京し就職したが15年して帰省。窓枠加工見習い5年後独立 性格;内向的、短気、几帳面、気が弱い、神経質
現病歴
3年前、父と資金を出し合って家を新築した。
その際、「なるべく金が掛からないように」とあちこち苦心し、窓枠は自分で工面することにして親方には頼まなかった。
それを恨まれたのか分からないが、以来仕事をさっぱり回してくれなくなり、折からの住宅不況と重なって仕事がさっぱりこなくなった。

そのころから「誰かの声がする」「自分のことを妬んでる」「絶対許さない」などと言い始めた。
「近所の人も自分の悪口を言いふらしている」と外に出なくなった。

仕事に出なくなって約2年、その間手の尽くせる限り考えられる限りの手段は考えて医療機関、保健所等受診を勧めてみたのだが、
本人は頑として受診しようとしないという。妻と両親は困惑し、保健所の家族相談を受診したあと紹介で初診した。

統合失調症の可能性が高いことを説明し、本人に説得するまでの間の対処法として、
ハロペリドール液剤を処方した。

一週間後、会話も穏やかになり、一ヶ月後には仕事にも行くようになった。本人が通院するように何らかの方法を、と妻と相談を続け、9ヶ月後、片頭痛の持病に悩んでいることを本人が妻に相談したのをきっかけに、
片頭痛の発作予防のための薬として液剤と同じ内容のハロペリドール錠剤およびミグシスを、発作時の薬としてゾーミッグを処方した。

以来、長年の発作が起きなくなった、と定期的に通院を継続している。
(ミグシスとゾーミッグは現在は使用していない)







B:仕事中に意味もなくニヤニヤする

症 例 初診時31歳、男性
主 訴 頭痛、いらいら、耳鳴り(本人)、空笑(母
家族歴 七人同胞第七子四男、両親と三人家族
既往歴 26歳、交通事故にて頭蓋骨骨折一昼夜意識不明
生活歴 大学卒業後上京し就職したが5年後帰省し兄の会社に就職
性格:内向的、明るい、無口、気が弱い
現病歴
29歳の夏頃から不眠がちになった。不眠傾向は次第に悪化し、耳鳴り(耳の中で水が 揺れているような)、頭痛、イライラも強くなっていった。

暮れ頃には職場で「意味もなくニヤニヤしている」と指摘され、上司の勧めで初診した。
ハロペリド-ル内服にて症状は改善したが、次第に自覚症状としての意欲低下、幻聴が強くなってきた。

薬物療法を調整しつつ、幻聴との距離を置く工夫、幻聴と現実を区別する工夫を行った。 幻聴は今も彼を悩ませているが、結婚した後は妻への責任も自覚し、「仕事内容が次々に変わるから仕事を覚えるのに自信がなくなって」と述べつつも支障なく仕事を続けている。
(ハロペリドール少量、クロルプロマジン頓)







C:性格の癖を治したい

症 例 初診時40歳、男性
主 訴 幻聴の治療は受けてきたが、被害的に考える癖を治すためのカウンセリングを受けたい
家族歴 三人同胞第一子、妻と子供二人と四人家族
既往歴 特記事項なし
生活歴 大学卒業後、現在の金融関連会社に就職して18年になる。
性格:内向的、短気、ずぼら、気が弱い、神経質
現病歴
25歳の頃、職場の対人関係の悩みから幻聴が始まって、
某クリニックで治療が始まった、という。

人間関係について、将来のこと等々、様々に頭に浮かんでは消えていく思考のために、
頭が必要以上に働く感じがあり、そのようなときウツ気分や不安感を感じる。

その繰り返しで、人付き合いを避けたり、自分一人の独りよがりの考えで被害的に受け取ってしまう、

そういう自分の癖を治したい、と40歳の時受診した。

前医でなかなか話しを聞いてもらえなかったと述べたが、自分なりに統合失調症の本を読み、思ったり考えたりしたことを聴いてもらいたい様子だった。

本人の飲み心地を確認しながら、現在は1回/月受診し、クエチアピン少量を服用しながら仕事を続けている。
(通院1年後ごろ、娘が不登校になり妻と娘が通院していた時期もあった。娘は登校するようになり、現在は通院終了。)






D:頻尿、腹痛・下痢の繰り返し、人と話したくない

症 例 初診時20歳、男性
主 訴 上記の通り
家族歴 三人同胞第三子三男、両親と次兄と四人家族
既往歴 特記事項なし
生活歴 大学二年中退、その後自宅にいる
性格:内向的、短気、無口、気が弱い
現病歴
中学三年生の頃から腹痛・下痢を繰り返すようになり、高校に入るとそれに便秘・下痢 の繰り返しも加わっていったという。

ちょうどその頃「バスケット部の先輩と合わない」と感じるようになり、徐々に人と会うのが億劫になっていったという。

大学には合格したが、頻尿も加わり授業に出なくなった。大学中退後、肛門科、胃腸科、内科等受診した後紹介されて受診した。

詳細に聴取すると、自分の体から刺激臭がすること、「自分で目を擦りたくなると、周りの人も目を擦っているから分かる」と述べる。周りの人が「クセエ」と言っているように、思えてならない。

「家の人は感じないみたいなのが妙だけど、世間の人はみんな感じるみたいだ」とも述べる。

とりあえずの診断を自己臭症として、治療開始した。
治療開始1週間後には、大量服薬自殺未遂で救急外来に運ばれる。以後約半年の間、抗不安薬、抗ウツ薬、抗精神病薬等を、種類や量を変えながら試したがどれもうまくいかず、スルピリドだけが少しは合うと評価した。
そうこうするうちに通院中断。

約1年後、「電波が話しかけてくる」と再来院。
前回無効であったが、再度ハロペリドールを中心に薬物療法を調整し、「薬がちょっと効いてる」と話すようになったのは約4ヶ月後だった。

以後はときに不安感が増悪することはあるものの、ハロペリドールの量の調整だけで順調に経過している。
(リスペリドン等への変更は無効だった)。
アルバイトも続けてこの夏で三年になる。


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Ⅳ.<4つのケア>



4つのケアからの対応法
 ①セルフケア
労働者自身がストレスや心の健康について理解し、
自らのストレスを予防・軽減し、対処すること
 ②ラインによるケア
労働者と日常的に接する現場の管理監督者(ライン)が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行う
 ③業保健スタッフによるケア
①事業場内産業保健スタッフ(産業医、事業場内保健士など)
②事業場内の心の健康作り専門スタッフ
(臨床心理士、産業カウンセラーなど)
③人事労務管理スタッフなどが、事業場内の心の健康づくり対策の提言
を行うとともに、その推進を担い、労働者および管理監督者を支援する。
 ④事業場外資源によるケア
事業場外資源
(地域産業保健センター、都道府県産業保健推進センター、精神科等の医療機関)を活用し、その支援を受ける<プライバシー保護に留意>

職場のメンタルヘルス「統合失調症」 産業医研修会
2004年8月25日
メンタルヘルスかごしま中央クリニック  大迫政智

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