メンタルヘルス

医療職とメンタルヘルス

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医療職とメンタルヘルス



最近 届いた、日本精神神経学会の会誌
「精神神経学雑誌4月号(114(4);349- 383,2012)」には、
特集として平成23年度学術総会シンポジウム「医療従事者のメンタルヘルス」が掲載されている。

その中で医師に関連して、保坂隆は次のように指摘している。

「医師職務には精神的重圧感が常に伴っており、これがメンタルヘルス不全の重大な原因となるという認識がおろそかにされている現状がある。この点が
医療崩壊」の原因の一つであるだろう、」と。

また、看護師のメンタルヘルス不全や医療エラーの要因として田中克俊は、経験年数の少なさや技量不足に加えて仕事ストレスと睡眠障害をあげている。
以上のような「医療職におけるメンタルヘルス」というテーマは、これまであまり表だって論議されてこなかったように筆者は記憶する。



少なからず以前の出来事だが、
総合病院看護師のこんな症例があった。



外来部門への配置転換のあと数ヶ月して、睡眠障害や食欲低下と共に、漠然とした焦燥感や意欲低下が次第に強くなったため初診した。

「外来業務には従事したことがなかったので、早く慣れなければと、思えば思うほどできなくなっていく自分が情けない」と語った。

それらの症状と表情や言動から、休養加療が必要なうつ状態、と判断し診断書を作成した。このとき筆者の判断には、患者の職業が看護師であるという事実が当然影響した。


その数日後、所属院長からの電話。処方内容と患者の家庭環境に関する問い合わせだった。診断書に書いたとおりでありそれ以上のことについては本人の承諾があればお話し致します、と返事した。

すると、
「看護師はいのちを扱う職業である。うつ病にかかっていて、看護業務に従事させて良いかどうかの問題であるから、答えるのは当然じゃないか」
と強い口調であった。


守秘義務との関連で「本人の承諾なしに答えられない」ことを理解してほしい。そう答えたのだが「もう分かった」と電話は切れた。

「いのちを扱う」という医療職は特殊な職業だから管理者としての責任がある、というのはその通りであろう。しかしそこには精神の変調に対する特殊な(偏見に近い)構え、があったような気もしてならない。







ここで異なる視点からこの症例を振り返ると、


医療従事者としての患者、
医療従事者である主治医
医療従事者としての管理者、

皆がそれぞれに「医療従事者」としての精神的重圧を負いながら関わり合っていたと見ることもできる。

いま再び同様の事態が起こったら、あの総合病院院長は、あるいは筆者は、 果たしてどんな対応をすることになるのだろう。

医師のメンタルヘルス不全の発症要因としてあげられる「精神的重圧感」はかくの如く、単に医師職務に基づくものとしてだけでなく、多様な場面で主客の位置を相互に変えながら「医療職のメンタルヘルス」に関与しているもののようである。


2012年6月

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